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社会保障改革―優先順位をはっきりと
by asahi.com
いったい、どうなっているのか――。そんな疑問を抱いている人も多いだろう。社会保障と税の一体改革のことだ。
今年6月、菅前首相のもとでまとめた案は、2010年代半ばまでに消費税を10%に引き上げる一方、年金や医療・介護、子育て支援の充実や効率化を進める計画を描いた。
ところが、厚生労働省の審議会や民主党の調査会で議論していく過程で、全体像が見えにくくなった。
本来、中長期的な検討課題であるべき「年金の支給開始年齢の引き上げ」が、まるで明日にでも決まるような印象を世間に与えた影響が大きい。
確かに、6月の案に盛られた項目の一つではある。だが、他にもっと議論を急ぐべきものはいくらでもある。
たとえば、
介護職員の給料に国費で1万5千円上乗せする今の制度は今年度末で期限が切れる。何もしないと給料が下がってしまう。来年度予算でどう手当てするのか。
子ども・子育て支援は、一体改革の目玉である。
年7千億円をかける充実策の中身がまとまらなければ、消費税を引き上げる説明がつかないだろう。低所得者の多い
国民健康保険への財政支援も優先度が高い。
すでに議論の蓄積がある項目は、それを生かすのが早道だ。パート労働者が、正社員の厚生年金や健康保険に入れるようにする。
サラリーマンと公務員らの年金を一元化する。この二つは、自公政権下でも法案が提出された経緯がある。
「これを片付けないと次に進めない」ものもある。
いま支給されている
年金は本来水準より2.5%高い。00~02年度、物価は下落したのに支給額を据え置いたためだ。これを解消しないと、デフレ下で長期的に年金財政をバランスさせる改革の議論に入れない。
いずれも、簡単ではない。厚労省が組織をあげて取り組むような課題がいくつもある。
心配なのは民主党内の議論の行方だ。一例は「低所得者への年金加算」である。聞こえはよいが、保険料を全額払い続けてきた人との公平性を損なわずに制度設計ができるのか。
年金の引き下げや保険料の引き上げなど痛みを伴う措置には手をつけず、
給付の充実だけつまみ食いするなら、責任政党とはいえない。
政府・与党は、消費税の引き上げが納得されるような社会保障改革の全体像と、優先順位がわかる工程表を示すべきだ。残された時間は少ない。