2011年12月22日木曜日

事業仕分けの先に見えるもの

事業仕分けの先に見えるもの
 ~草加市副市長(前:構想日本政策担当ディレクタ-)中村 卓~

2009年11月11日朝、国立印刷局市ケ谷センターには大勢の聴衆が詰めかけ、テレビカメラが列をなした。第3ワーキンググループ進行役の私は、緊張の中で言った。「皆さんおはようございます。これから事業仕分けを開始します。」

それから2年余。政府の事業仕分けは、最近の「政策仕分け」に至るまで、対象や手法を変えつつ継続実施されている。そしてこの間、政府はもう一つの事業仕分けに取り組んできた。「行政事業レビュー」である。

事業仕分け第一弾を終えた後、私は、その実施体制づくりに携わった。それは、(1)国の全事業(約5400事業)について、支出内容等の詳細を説明した「事業レビューシート」を作成、公表する、(2)各府省は「予算監視・効率化チーム」を設置し、自ら事業検証(レビュー)を実施する、(3)一定の期間を定め、事業仕分け方式によるレビュー(公開プロセス)を実施する、というものであった。最初のレビューと公開プロセスは2010年5月に実施されたが、各府省職員の真剣さが感じられた。

既に多くの自治体では、事業ごとのシートを作成、公表しており、そこには個々の事業が何のためにどのように実施され、どうお金が使われ、どういう成果を得ているかなどが書かれている。これをもとに事業評価を行い、さらに住民参加の事業仕分けへと進む自治体が増えている。国の事業仕分けを一過性のものとせず、国民に開かれた、継続的な事業検証へとつなげるには、このシートづくりとレビューを根付かせること(事業仕分けの内生化、定常化)が不可欠だった。

行政事業レビュー最大の意義は、国の全事業を共通シート化し、公開したことだろう。現行の政府予算書や決算書は、国会議員ですら中身がよく分からない。それは、個々の事業が、所管職員と特定の関係者の閉ざされた世界で差配される原因ともなる。レビューは、ここに風穴を開けた。そして今秋、衆議院決算行政監視委員会で、このレビューシートを用いて、憲政史上初めて「国会による事業仕分け」が行われた。報道は大きくなかったが、これは開かれた国政、国会審議への画期的取り組みであった。

情報公開法の制定から12年余。かつては隠せたことが隠せなくなり、行政活動は国民の耳目に晒されるものとなった。事業仕分けは、そこにさらに踏み込むものだ。国、地方を問わず、行政は、開かれることでより公正に、国民に近いところで仕事をするようになったと私は感じる。しかし、透明化された行政活動では常に“ボロ”が露見し、メディアに晒される。ベールの内側にいた時代の権威は失墜し、国民の不信が増大する。

だがどうだろうか。今、私は草加市で仕事をし、市民との関係で様々な試練に直面しているが、一方で、市民とのつながりが強まっていると感じている。公益活動に参加する市民も増えてきた。草加市に限らず、地方では住民と行政の間に、不信を超える「絆」が育ちつつあると感じる。それは、多くの自治体行政が国政よりも早く、かつ徹底して住民に開かれてきたからにほかならない。

今、事業仕分けや行政事業レビューによってこじあけられた行政は様々な試練に直面している。それを生みの苦しみと捉えたい。地方で住民と行政との絆が育ちつつあるように、国政がさらに国民に開かれることで、やがてメディアの見方も変わり、国政と国民の絆も太くなっていく…。その時、為政者からは、この先の時代に真に必要な、確乎たるメッセージが国民に届けられる…。それが事業仕分けの先に見えてくると信じたい。

中村 卓(なかむら・たかし)
1949年京都府生。1974年から2010年まで草加市勤務。2009年10月~2010年3月、内閣府行政刷新会議事務局政策企画調査官。2010年4月~2011年3月、構想日本政策担当ディレクター、東京財団研究員。現在、草加市副市長。

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