(以下引用)
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis290/e_dis281.html
これは、拙著「だまされないための年金・医療・介護入門」(東洋経済新報社)をはじめとする一連の著作で発表している「社会保障を通じた世代間損得表」を、内閣府や三菱総研の優秀な研究員達に、最新の統計や最新のシミュレーション・モデル使ったり、作ってもらい、推計をリバイスしてもらったものである。
すなわち、(1)年金については、2009年財政検証で厚労省が発表した年金数理モデルと経済前提を使い、(2)医療、介護についても、私が以前作った厚生労働省予測を再現するモデルを、最新統計を使ってリニューアルしたものを、内閣府・三菱総研に作ってもらい、推計を行った。私自身が一人で作業を行うより、それぞれの研究機関の名をしょっているだけに、はるかに公正かつ正確であるだろう。
冒頭の表は、論文の純受給率の数値を、私が発表している金額ベースのものに直したものであるが、依然として若い世代、将来世代が悲惨な状況であることが一目瞭然である。推計期間の関係で、1950年よりも前に生まれた世代のものが表示されていないが、1955年生まれ以降は全て「損」となっている。また、将来世代の損失額も、たとえば2010年生まれでは、マイナス3900万円もの損失額となっている。
実は、はっきり言って、この数字でもまだまだ甘い。この論文では、内閣府という政府機関が公表する推計として、同じ政府である「厚生労働省の2009年財政検証が正しい」という前提を取らざるを得なかったが、もちろん、そこで示されている「100年安心プランは維持されている」というシナリオは、粉飾決算であるとして個人的には批判しているところである。
これを現実的な経済前提に直して、最近に至る積立金の予定外の取り崩し・運用損を含めれば、100年安心とするためには、保険料率の大幅な引き上げか、マクロ経済スライドの大幅な発動が不可避であり、それを計算にいれれば、さらに将来世代の損失額は大きなものとなる。私の一連の著作よりも、年金部分の将来世代の損失額がやや小さくなっているのは、そのためである。
また、このモデルの限界として、支払い額は保険料だけに限定されており、社会保険に大幅に投じられている税金の負担額を含んでいない。いま議論している消費税5%引き上げや、すでに岡田副大臣、安住財務大臣、藤村官房長官が、10%では足りないと言い始めているように、将来的に20%から30%台に引き上げられる予定の消費税負担を考えれば、さらに将来世代の損失額は大きくなる。
その意味で、この論文は、内閣府や三菱総研の多大なご尽力をおかけした割には、少し中途半端な結果になってしまったと個人的には考えているが、内閣府という政府機関が、このように大きな世代間格差の存在を認めたということに、実は、この論文の最大の価値があるように思う。
今回、せっかく苦労してこのような精緻なモデルを内閣府内に作ったのであるから、内閣府は、社会保障制度が変更されるたびに、世代間格差の状況はどうなったか、定期的に計算結果を発表してはどうだろうか。とくに今、関心が高い「一体改革」が世代間不公平にどのように影響するのか、すぐにも計算できるのではないか。
民主党政権が、この期に及んでも安易に行う社会保障のばらまき政策が、いかに世代間不公平を広げるのか、国民がよく「見える」ようになれば、民主党の「ばらまき病」も少しは抑制されるかもしれない。今回のプロジェクトに、私が全く謝礼も受け取らず、ノウハウを無料で提供をしたのは、実は、こうした「政策の見える化、可視化」を内閣府がやってくれることを期待しての事なのである。どうぞよろしく。
P.S.
また、内閣府にはできれば、ここで使ったモデルを、大学の研究者やシンクタンク研究員、政党、大学院生などが誰でも使えるように、マニュアル付きで公表することを考えてもらってもよいかもしれない。私は、自分の以前に作ったモデルに、クレジット(著作権)を主張するつもりは全くない。私自身は、自由にしていただいて結構である。
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