2011年1月11日火曜日

日本の改新

読売新聞(1月7日)の特集記事。
胸に落ちる記事でしたのでご紹介。
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「識者に聞く」 伊藤隆敏(東大教授)

日本経済の低迷は、中長期的には少子高齢化による人口減が大きな要因だ。働きながら子育てができ、安心して子どもが産めるような環境にしていく国の努力が足りなかった。

一方、デフレを克服できないことも大きい。デフレの中では税収は増えず、企業は設備投資の意欲がわかない。それがさらにデフレを加速させる。日本は、物価下落と景気低迷が連鎖する「デフレスパイラル」に陥っていると思う。

日本銀行の金融政策の誤りが最大の原因だ。過去の手法にとらわれない金融緩和や、物価上昇率に目標を設けて政策運営する「インフレ目標」を取り入れるなどし、人々が「物価は上がっていく」と確信を持てるようにする必要がある。

日銀は2010年10月に決めた「包括緩和」で、不動産投資信託(Jリート)や上場投資信託(ETF)を買うことにしたが、これは10年前にわれわれ経済学者が提唱していた。対応が遅すぎる。

国の財政再建も急務だ。歳出の半分以上を新規国債発行で賄うというのは異常事態だ。特別会計などの「埋蔵金」を使ったつぎはぎも限界に来ている。

答えはみんな分かっている。消費税率を上げるしかない。

所得税や法人税を上げるのは難しい。年金など社会保障の給付を思い切って切るなら別だが、それもできないだろう。「消費税率を上げる必要がありますか」と聞くと、国民の5割以上が「必要がある」と答える。それなのに上げられないのは、政治の怠慢だ。

ギリシャなど欧州の財政危機はひとごとではない。日本ではまだ個人や企業の貯蓄を受け入れた銀行が国債を買い、債券市場が安定している。国債の95%を国内で引き受けている。

しかし、高齢化が進み個人の貯蓄は取り崩され始めた。財政赤字が今のままなら、国債の安定消化ができるのは最大であと5年ではないか。いったん銀行が「日本国債を売りたい」と考えるようになれば、長期金利の急騰などパニックはすぐ起きる。

消費税率は当面、「経済成長がプラスであれば毎年2%ずつ上げ、マイナス成長になった場合は引き上げを停止する」というようなルールを作ることを提案したい。単純計算では、財政の健全化には最終的に15~20%の引き上げが必要だ。

今後、経済成長をどこまで押し上げられるか、歳出のムダをどこまで切れるかで終点は違ってくる。

少子高齢化の中で成長を続けるために有効なのは、貿易の自由化だ。自由貿易協定(FTA)の締結や、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加が重要になる。モノや人、金が海外と自由に行き来するようになって始めて、日本が得意とする技術や人材が生きる。

農業団体が強く反対するが、FTAやTPPは農業にもチャンスを与える。守りではなく、いかに農産物を輸出するかという攻めを考えるべきだ。農産物の生産から出荷、流通までの仕組みを見直せばよい。農協と競争する形で、商社が本格的に農業分野に参入できるようにする。商社は海外に売るノウハウや販売網を持っている。

成長分野として医療・健康も有望だ。今は一律のサービスを一律の価格で提供しているため、潜在力はあるのに産業として育っていない。高価格でも、質の高いサービスを提供するべきだ。アジアの富裕層らが日本に人間ドックや病気の治療のために来るようになる。英語ができる石を増やしたり、保険診療と、保険の聞かない自由診療が併用できる「混合診療」を広く認めたりする必要がある。電化製品でも自動車でも高級品があり、それを特定の人に売って利幅を広げ、あとは広く薄く提供している。同じようなことが農業や医療、教育などでもできるはずだ。

一方、根本的な課題は人口を増やすことだろう。現在、「団塊ジュニア」と呼ばれる第2次ベビーブーマーが30歳代後半から40歳前後になっているが、彼らが親となる第3次ベビーブームは起きなかった。あと4、5年チャンスがある。

対策として、安心して子育てができるよう、小児科医の不足や、保育所に入れない待機児童の問題をすぐに解消すべきだ。子ども手当より優先度が高い。

社会保障制度では、若者と高齢者世代の不公平感を和らげる。そのために、消費税で社会保障制度を支える体制にしていかなければならない。このままでは負担は今の若者や、これから生まれる子供たちにどんどん回ってしまう。

消費税率を上げる際は、請求書などに税額の記載を義務付ける「インボイス」(税額票)方式にし、ミルクやパン、コメなどの生活必需品にはゼロ税率を採用することも検討すべきだ。

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